使徒聖パウロの「目からうろこ」(『使徒言行録』)
使徒聖パウロは、初め正統なユダヤ教徒で、キリスト教の迫害者でした。
ところが、キリスト教徒を捕らえてエルサレムに連行する目的でダマスコに行く途中、突如キリスト教に改宗します。
その劇的な場面を、『使徒言行録』から引用しましょう。
さて、サウロ(パウロのヘブライ名)はなおも主の弟子たちを脅迫し、殺そうと意気込んで、大祭司のところへ行き、ダマスコの諸会堂あての手紙を求めた。
それは、この道に従う者を見つけ出したら、男女を問わず縛り上げ、エルサレムに連行するためであった。
ところが、サウロが旅をしてダマスコに近づいたとき、突然、天からの光が彼の周りを照らした。
サウロは地に倒れ、「サウル、サウル、なぜ、わたしを迫害するのか」と呼びかける声を聞いた。
「主よ、あなたはどなたですか」と言うと、答えがあった。
「わたしは、あなたが迫害しているイエスである。起きて町に入れ。そうすれば、あなたのなすべきことが知らされる。」(使徒言行録9-1~6)
この時から、パウロは、目が見えなくなり、三日間は飲み食いすることもできませんでした。
しかし、主が命ずるまま、ダマスコに入ってアナニヤという人から祝福を受けました。
すると、たちまち目からうろこのようなものが落ち、目は元どおり見えるようになります。このときから、パウロは回心し、キリストを宣教する使徒になったのです。
ちなみに、この「目からうろこ」という表現は、現代でもよく使われますが、もともとは聖書のこの箇所に由来があります。
キリスト教の迫害者から宣教者へ180度の価値観の転換を行なったパウロは、その後、波乱万丈の生涯を送ることになります。
パウロは当時の一流の学問を修め、教養が高く、また名文家でした。
神の啓示を受けた彼の手紙は、諸教会の人々を教え励まし、勇気づけました。
そこには、あらゆる苦しみや死をものともしなかった彼の熱く燃えるような信仰と愛の心が文字となっているのです。